デーモン



 そのころ わたしにとっては
 毎日の生活の印象が すべて目新しかった、
 娘たちのまなざしも 樫の森のざわめきも
 そして 夜に鳴くうぐいすの歌声も。
 そのころ 高まりきったもろもろの情感や
 自由とか名誉とか愛情とか
 それに 霊感に溢れた芸術の数々が
 強烈に血潮を沸き立たせたものであった。
 あれこれの期待や悦楽にうちつづく時を
 不意におそってきた憂愁の影でおおいながら、
 そのときである、ひとりのよこしまな心の天使が
 ひそかにしばしば わたしをおとずれはじめたのは。
 わたしたちの会合は 憂いに満ちたものであった。
 そのひとの微笑 不可思議なまなざし 
 そのひとの突き刺すような鋭い弁舌は
 私の心に 冷たい毒を流しこんでいった。
 果てしない中傷をふりまいて
 そのひとは 美しいものを幻想にすぎぬといい
 そのひとは 霊感を軽蔑しつづけた。
 愛も自由も そのひとは信じなかった。
 人生をあざけるように眺め、自然界のなにものをも
 そのひとは 祝福しようとしなかった。