俳句


 初雪やかくれおほせぬ馬の糞


 はちわれて実をこぼしたる柘榴哉
 

 順礼一人風の落ち葉に追はれけり


 初産の髪みだしたる暑さ哉


 手の内に蛍つめたき光かな


 蝿憎し打つ気になればよりつかず


 一人旅一人つくづく夜寒哉


 切れ凧の切れて帰らぬ行へ哉


 落鮎の身をまかせたる流れかな


 なまじひに生き残りたる暑哉


 鳶一羽はるかに落つる枯野哉


 はらはらと身に舞ひかかる木葉哉


 我心蝿一匹に狂はんとす


 蚊を打つて軍書の上に血を印す


 村会のともし火暗き夜寒かな


 水鳥の昼眠る池の静さよ


 朧夜や一騎東へ白き母呂


 蒲公英に砲台古りし岬かな


 長き夜や枕刀を置き直す


 月さすや碁をうつ人のうしろ迄


 蕗の薹ほうけて瓶にさされけり


 ガラス越に冬の日あたる病間哉


 韓王の行列来る春日哉


 暁の菖蒲湯に入る一人かな


 冬の川石飛び渡り越えにけり


 蛇のから何を力に抜け出でし


 黙然ト糸瓜ノサガル庭ノ秋


 虫ノ音ノ少クナリシ夜寒カナ


 栗飯ヤ病人ナガラ大食ヒ


 病床ノウメキニ和シテ秋ノ蝉


 物思フ窓ニブラリト糸瓜哉


 驚クヤ夕顔落チシ夜半ノ音


 腹稿を暖めて居る懐炉かな


 不忍の鴨寝静まる霜夜かな


 春惜む一日画をかき詩を作る


 春水ヤ囲ヒ分ケタル金魚ノ子


 時鳥辞世の一句なかりしや


 鳥の巣も頼むや子安観世音


 桃の如く肥えて可愛や目口鼻


 黒キマデニ紫深キ葡萄カナ