ひかるのCD、LP評



尾崎豊 放熱への証


 尾崎豊の最高傑作とも言える。枯れて憔悴した、焦燥感のある遺作。僕は今32歳だが、この歳にもなるとこのアルバムが最高傑作に思える。何度も聞いていて歳をとるとこのアルバムの音楽性の高さがわかってくる。Mr Childrenが最近大人の、夢は消えたが諦めるのもなんか嫌、昔に戻れない、青春は過ぎた、この年齢の非常な戸惑いとちょっとした肯定のある作品を作っているが、尾崎豊ももっと生きていればもっと良い曲をかけたはずだ。

1.汚れた絆---スタートからどこか吹っ切れたような明るさがある。「二人で分け合うことすらできない」のところの歌唱は秀逸。枯淡のメロディーもあると思う。このアルバムの哀しさの始まりである。

2.自由への扉---多くの人はこの曲を明るい曲と言っている。解ってない。これは苦しみの地獄の中で叫んでる曲なのだ。リズムが苦しそう。どうにもならない思いをわめいている。訳詩とも言える僕の詩「自由への扉」参照。

3.Get it down---単純なコード進行かと思いきや実は疾走感のある、結構スピード飛ばしたドライブの音楽。途中で幾つも疾走感のあるタイヤのキュッキュした音の様な吹奏楽器の音がみえる。これもまた哀しさ溢れる曲。だけど汚れた絆のような明るさも兼ね持っている。

4.優しい陽射し---優しい曲。諦めた中で安らかに時を過ごす。尾崎豊の全ての曲に通じているように諦めきっているということはない。必ず戦闘への意志を含んでいる。「明日を星で占う テーブルの上で 愛を探す夜に ぼんやり時を見つめているだけ」、「思い出が静かに 心を包むから 夜に身を委ねて 心偽らず安らかに」、「憧れが何故か 心を傷めるから 瞳を閉じてみる 全てはきっと優しいはずだと」、この哀しさ溢れる、そして優しい曲はなんだろう。そして音楽に包まれて僕は安らぎを感じる。今を、情けない僕の人生を、どこか肯定してくれる。

5.贖罪---外を乗り物や室内から見ると都会の哀しさをとりとめもなく感じ、苦しく時は流れていく。この先は全く見えない。どうすればいいのか全く解らない。絶望の中でただ時だけが流れていく。

6.ふたつの心---僕は新宿で駅ビルでご飯を食べたとき、エスカレーターの中で苦しさを感じ、その時に頭の中でこの曲が浮かんだ。夜を感じさせる曲だ。都会の中、特に新宿でせめてもの希望を求めている曲だ。

7.原色の孤独---いかれた曲だ。昔は単純なコード進行で下らないと思っていた。しかしこれは傑作だ。皮肉っぽく、そして心が乾燥していくイメージの曲だ。「心が壊れてく俺にも分からない 鏡の中の俺は 今日も惨めにほら吠えている」。僕にも美しい僕の顔が崩れていく時期があった。心が汚い記憶の中で苦しんでいった時、鏡を見ていかれてきた自分の顔を悲惨に思ったものだ。

8.太陽の瞳---このアルバムの中での最高傑作。尾崎の曲、全曲を通してもトップの方に位置する曲だ。太陽が揺れながら沈んでいく。彼の最後を感じさせる。副題「Last Christmas」最後のクリスマスであることを予感していたのであろうか。あまり変に感傷的になり、宿命としての直後の死、などとは言いたくはないが。最後の今泉のエレキギターが最後の光芒を、沈み行く人生を謳いあげている。そして最後にアーっと消え引いていく。

9.Monday morning---まさに月曜の始まり、新しくまた地獄の労働に入っていく。ポップなリズムに乗りながら哀しい流れを歌っている。都会の、いや日本を含め世界の社会の構造、管理社会、歯車として当て嵌められていく悲惨さを歌っている。

10.闇の告白---絶望の曲。この世界では人々は次々と悲しみの中死んでいく。人間のどうにもならない恐ろしい絶望的な哀しさ。人間って生きものは哀しすぎる。どこにも幸せはなく、絶望的な人生の中で必死に生き、何も報われず不幸せに死んでいく。どこにも救いがない。

11.Mama,say good-bye---尾崎の鎮魂歌。「夜明けまであとすこし 俺はハイウェイを走る」、淡々と悲しみを含んだ終わりは始まっていく。星は人間の悲しい宿命を知っているようだ。人間は夢叶わず、死んだ後にせめて夢でも一人叶えていくものなのだろうか。大切な母が死んだ。耐えられぬ悲しさ苦しさが伝わってくる。彼の最後のツアーのバンドメンバー達による尾崎のためのインストゥメンタル「NO ONE IS TO BLAME」でもハーモニカとピアノでこの曲を歌い上げている。最後の、絶望の、そしてその中でも純粋で、そして破滅を、終わりを、荘厳にハーモニカで吹き鳴らしている。

音質は普通。悪くもないが良くもない。1992年発表のアルバムだが、今の録音に比べれば悪いほうかもしれない。先にも紹介したインストゥメンタルアルバム「NO ONE IS TO BLAME」はお勧め。盤中の「虹」、「卒業」、「Oh My Little Girl」そして「Mama,say good-bye」が傑作。

(2007/9/17)


尾崎豊 ベスト(僕がCD-Rに焼いたやつ)

1.I Love You---最初にムード作りと取り敢えず最初に流しておくと良いのがこの曲。尾崎本人が気に入っていても飽き飽きするという人が多い。しかしやはり感動させる秀作であると思う。

2.Oh My Little Girl---彼は飛騨あたりの血を持っていて、東北武士の優しさが血に流れている。それを最も感じさせる曲。最高傑作とも呼ばれている。僕も大好きだ。

3.群集の中の猫---始まりがいい。この曲を聞くと10代の気分になれる。やっぱり僕は正しいんだ。正しかったんだとあらためて思える。本当に青春に入没し、その中で何か絶対性を感じさせてくれる。僕はただ正しい。間違えていない。僕は絶対正しいんだ。それが尾崎の曲なんだ。

4.Teenage Blue---尾崎はこれを収録する時声が少し枯れていたらしい。でも曲調に合うというのでその声で収録された。「一日の終わり燃えてる」というところが好きだ。

5.ドーナツショップ---イントロから素晴らしい曲。浜田省吾に似た曲があってそれから影響を受けてもいるのだろうが、こちらの方がはるかに上だから構わない。この曲にはある意味、混沌という意味でのディオニュソス性があると前から感じている。混沌の中、今を必死に生き叫ぶ。その今、性。そして曲中、ドアーズの「音楽が終わったら」の間奏のように音が世界がねじれていくような凄まじさを感じる。世界を曲げるほどの情熱、極限に深いところからの叫び。あまりの凄みに世界がねじれ征服されるような。

6.誰かのクラクション---僕がピーク体験を味わった曲。人生での最高の喜びといってもいいかもしれない。少なくとも芸術で受ける最高の快感ですな。街の中を街の鼓動を味わいながら愛の精神を持った人間が歩んでゆく。不思議に難解なコード進行を持つ。

7,核---シングルバージョンを焼いたのだが、アルバムバージョンより断然いい。非常に苦しそうに歌う。ここまで苦しそうに極端な歌い方をした歌手は果たして今までいたのだろうか。感情過多になるはずなのに、不思議とそうは感じない。とても上手い。

8.街角の風の中---普通にカラオケで歌っても周りに引かれない尾崎の唯一の曲といえるかもしれない。明るい曲調だ。やはり優しさ溢れる曲なのだが、明るさに溢れている。新鮮な感じのする曲。

9,虹---18から19の頃、雨の日、僕はヨーカドーの無料バスに乗りながらこの曲を聞いて深く陶酔していた。団地の中で一人雨の中祈っている曲にも取れるし(特に彼のトリュビュートアルバム、NO ONE IS TO BLAMEのこの曲では)、雨の日の喜びにも取れる。間違いなく傑作。僕が多く感動した曲の一つ。

10.風の迷路---落ち込んだ時、この曲に何度か救われた。しょうがないや、でもいいんだ、大丈夫なんだ、ベッドに横たわり優しくつぶやこう、何とかなるんだ、what is love,what is love,what is love,what is love.........。

11.太陽の瞳---没落。太陽が揺れながら沈み、自らの終焉を歌っている。

12.ドーナツショップ(大阪球状ライブ)---曲の最初と最後の語りが凄い。それを聞いては24の頃、復讐への勇気を養ったものだ。「瀕死の白鳥、もう少し強いか。「この街の中では、僕以外の何もかもが僕を否定しようとしていた。」 追い詰められた高貴な魂。残り少ない力を振り絞り、光へ。アイデンティティー。絶対的な高貴さ。そよ風の吹く夕暮れの街を歩き出す。少しずつ体にエネルギーが漲ってゆく。もう一度、もう一度。深い自信を持って、余裕を持って戦いゆく。深い自信と余裕を顔に浮かべて、僕は敵の前に立つ。」(雑感より)何度倒れても、完全に敗北が決定しても、それでも戦い続けなければならない。

(2007/9/22)


尾崎豊 インストゥーメンタルアルバム「NO ONE IS TO BLAME」


彼の最後のツアー、バースツアーのバンドが作ったインストルメンタルアルバム。凄みの壮絶なアルバムだ。

1.I Love You---ピアノで西本明が綺麗に歌い上げている。なんだかんだいっていい曲だ。特にこのトリビュートは。

2.街の風景---今思ったんだが、尾崎なんで死んじゃったんだ。尤も彼の死後彼を知ったわけだが。とても哀しいよ。この曲は彼が15の頃作った曲。きれいに歌い上げてるじゃないですか。

3.シェリー---この曲、僕いいと思ったことないんだ。ごめんね。でもこの曲の原曲というか最初のバージョンの風にうたえば。「道端に倒れこみ風に吹かれているよ」っていう、ラジカセ録音のはいいな。ほんと旅に出てる感じがする。旅路にて歌い続けている感じ。

4.虹---明瞭し難き大傑作。雨の日バスの中でも、家の中でも、団地の階段にいることを想像しても、精神病棟の水面所でも雨の日、深く感動したものだ。この光る打楽器の音がまた凄くいい。こんな曲の原曲を作る男は(原曲もとてもいい)どれほど偉大な男なのか計り知れない。

5.卒業---最初はどうかな?と思ったが、解ると素晴らしい解釈であることがわかる。原曲より上だろう。新しい解釈だが。深みのある荘厳な解釈。

6.Oh My Little Girl---優しい温かなアレンジだ。本当に優しい気持ちになるな。英雄主義に禁断の2番から3番への間奏。心が優しさが、同情に崩れてゆく。

7.ドーナツショップ---原曲のすごさにしては凡庸なアレンジ。

8.ダンスホール---最初の音試しが入っているのが何かいい。スタイリッシュに美しく原曲が描かれている。わくわくするような楽しさもある。

9.Mama,say good-bye---ハーモニカで荘厳にこの尾崎最後の曲を歌い上げている。心の奥底からの深い叫び。哀しいよ。寂しいよ。みんなと再会したいよ。素晴らしいひと時を過ごしたいよ。でも叶わぬ夢なんだね。こんなこと言ってたって誰も褒めてくれやしないし、誰の目にもほとんど留まらない。不条理に、僕は、社会の中に埋没し、その記録は永遠に抹消される。それでもやらなきゃならないだろう。戦うしかないよ。何だかんだ言って。少しずつでも気持ちだけでも、とにかく戦うしかないんだよ。絶望の中何度倒れ絶望し続けても。Fight! どこか美しく、いい意味で気取っていて、音楽の愉悦があるトリビュートだ。本題に戻ると。
 宿命感を感じる。宿命を受け入れている。どこかふっと笑うように明るい。(2008/2/2改)
 これでいいんだ。ふっと笑い、現状肯定をしている。こういうものだという諦めとともに。(2008/2/5改)

10,NO ONE IS TOBLAME---尾崎は晩年この曲が好きだった。バースツアーでもオープニングソングに使っていた。誰のせいでもない、誰のせいでもない、っていうこと。白紙の散乱の最後の「成就」みたく、肯定し受容するな。戦え。しか東京に住んでたらたまらんよ。殺されるよ。街に。まあ優しく穏やかに歌い上げています。


カラヤンについて


カラヤンは最低だ。ここまで酷いとは思わなんだ。わかりやすいだけの変に流麗な偽(偽物といってもわかりやすい偽物。いや、似てさえいない)フルトヴェングラー。まだクラシック大して知らないのに、カラヤンはダメなんていうとなんか気取っててアレかな、と思っていたのだが、実際買って痛感した。カラヤンは最低の部類に入る指揮者である。彼よりひどいと言えば、チェリストのカザルスの指揮くらいである。カラヤンもさすがにそこまでは酷くないからね。良かったねカラヤン。空やん。下裸爺ん。  (2008/12/6)
ハードオフでジャンク品できれいな状態のを買った。LP。(2008/12/14改)


ビートルズ 「リボルバー」 オリジナル盤(英国盤) LP


ノイズはまあ耐えられる。生々しく、ある種の実在感があり、本物の生の演奏みたいな音がする。ただ高音が甲高いかな。でも今日はコンセントのセッティングをいい感じにしたからかなかなか良い。まあ甲高い音が出たコンセントのセッティングのときの方がある種凄みがあったが。ヤフオクの3000円だしお得なオリジナル盤だ。(2008/12/14)